いまSDGs(持続可能な開発目標)が大きく取り上げられていますが、じつは革って元々サスティナブル(持続可能)な完成された製品なんですよね。
でもでも、革と一口にいってもたくさんの種類があるし、製法にも色々とあります。
そして、たくさんの革製品が並んでいる現代において、いま安い革を使うことが環境破壊につながっているのをご存知でしょうか。
中には近隣住民の命を対価に作られているようなヤバい物も存在していて、記事の中の動画を見れば凄惨さがわかるかと思います。
安易に安い革製品へ飛びつくことで環境破壊に加担しないためにも、今回は革と環境問題の話をしていきましょう。
※安い革製品を買うのをやめろ、なんて言う趣旨ではないので、内容については各自で判断してください。
まず牛革・豚革はエコ素材ということをもっと知ってほしい
「革って動物を殺して取っているんでしょう? 残酷!」
これ、革を知らない人からよく言われるんですよね。ほんと迷惑な話です。
エコです!本来の革製品はめちゃくちゃエコなんです!!
世の中に出回っている革で一番多いのは牛革なのですが、革を取るためだけに牛を殺すなんて非効率なことはしていません。
牛や豚などを皮を取るためだけに育てると基本的には食肉の余りを使うことになります。
牛の皮だけとって肉を捨てるのは非効率
育成牛(妊娠前:生後6~18カ月)で50万円くらい、経産牛では40~50万円くらいです。
さて、牛一頭でこの価格なわけですが、一頭分からどの程度の革が取れるのかご存知でしょうか。
育成牛(妊娠前:生後6~18カ月)は、俗に言うキップスキンと呼ばれる年齢ですね。
長財布を作ろうと思えば10~15個ほどのサイズ感だと思います。(※大量生産の経験がないので概算になります)
もちろん傷やシワ、部位によって使えない部分もあるため、~10個作れたら良い方ではないでしょうか。
つまり、長財布の原皮価格だけで50÷10=5万円。
この原皮を使って、鞣し、染色、加工、縫製、販売、と様々な値段を載せていけば、求められている品質にもよりますが財布1個あたりの値段は10万~あたりでしょうか。
このように普通の牛を、財布専用の革として一頭買いするだけでもこの価格になるのです。
ハイブランドが革専用で牛を育てた場合は、革質にこだわるためもっと価格は上がります。
もしかしたら世の中には皮だけとって肉を捨てることをしているブランドもあるかもしれませんが、とても現実的とは言い難いのです。
革は余り物産業
革というのは食肉産業の余りもの、大雑把にいうと通常なら捨てられる部分を使って作られています。
牛や豚の皮はそのままだと廃棄物になるものを、手間をかけて革に鞣しているんです。
鳥の革がないのは、鶏の皮を食用として使うことができるため、廃棄する必要がないからですね。
例外もあると思いますが、大多数はこの流れです。
ほとんど知られていませんが、じつは食肉業界の景気が悪くなると、革屋さんの在庫が減ったりします。そういう業界なのです。
いうなれば、革は本来なら捨てられる部分を再利用しているリサイクル品、最高にエコな素材ということです。
余り物ならもっと安くしろや!という考え
余り物という言葉で嫌な気持ちになった人もいるかもしれません。
なんなら、「もっと安くしてええんちゃう?」みたいな考え方、嫌いではないです。
ですが、タンナー見学にいけばたぶんガラッと意見が変わると思います。
設備がすごいのなんのって。
工場の場所代や、ドラム、排水の浄化装置などなど、パッと見える場所だけでも億単位の金額がかかっています。
また、余り物といいながら仕入れ先にはかなり気を使っていて、季節によって仕入れる場所を変えたりしています。
古紙回収のように廃材置き場から無料で拾ってきているわけではないので、安くするのは難しいのですね。
環境汚染問題は革の鞣し方で差がでるの!?
- タンニン鞣し(自然由来の鞣し方)
- クロム鞣し(化学薬品を使った鞣し)
革の鞣し方も色々と種類が増えてきていますが、主流になっているのは上記2つ。
どちらにもメリット・デメリットはありますが、今回の環境汚染問題で大きく取り上げられているのはクロム鞣しのほうです。
クロム鞣しが問題になっている理由
まず、クロム革自体に非があるわけじゃないです。お間違えなきよう。
問題は生産量にあります。
クロム革はタンニン鞣し革よりもずっと短いサイクルで作れるので、大量生産に向いているんですよね。
しかし、大量に作れるということが大問題を引き起こします。
※注 クロム鞣し製法は環境に悪いわけじゃない
鞣すときに使われる6価クロムの毒性なども取り上げられることはありますが、現在は毒性の低い3価クロムが主流なのと、現地で本当に6価クロムが使われているのか裏付けが取れなかったため割愛します。
よく勘違いされる、「化学薬品を使っているから環境に悪い」というのは、まー心情的にそうなるよねっていうだけで、エビデンス付きの説明は見当たりません。
また、身の回りのメッキ製品も3価クロムを使ったクロムメッキが主流なため、クロムを排除しようとしたら電化製品すべて使えなくなりますよね。
クロム自体は土壌に存在している普通の鉱物にも含まれているので、環境負荷的に見ても自然由来のタンニンとそんなに変わらないのでは?と思っています。
大量生産における闇
じゃあクロム鞣しのヤバい理由ってなに?と聞かれると、発展途上国を使い潰してしまう性質にあります。
革だけに限った話ではなく、アパレルや電子部品なども大量生産が環境問題の引き金になっていると聞きますが、今回は革に焦点を絞りましょう。
この次の章で説明していきます。
バングラディシュと革業界の闇
世界最大級の皮革生産国 バングラディシュでは、皮革輸出量が国内2位になるほど大きい産業になっています。
しかし、バングラディシュのタンナー(革生産工場)が集まっているダッカのハジバル地区の環境問題が深刻化していて、世界で5番目に汚染されているという報告もあるほどの悪化ぶり。
目を覆うような環境をよそに、近隣工場は毎日22000リットル以上の有害物質をブリガンガ川(ブリゴンガ川)に放出し続けています。
動画を見ればわかりますが、生産時に出てくる端革やビニールなども大量に川へ投棄されていますよね。
また、こんなに革が国外へ売れているにもかかわらず、貧困問題も深刻化していて、児童労働、皮膚疾患、呼吸器系疾患、危険な製革用機械の事故で起きる四肢切断など劣悪な労働条件などが問題になっています。
2022年現在で環境負荷の改善はしている?
上記内容は2017年頃までの情報しか追えないため、今現在はどの程度改善しているのかわかりません。
しかし、2017年時点でハジバル地区を浄化するために、現地のタンナーを別の場所へ移転させる試みがありましたが、ほとんどのタンナーに移転を断わられています。
また、世界で最も汚染された国と地域(2018~2021)についても、バングラディシュは1位を記録するなど問題の根は深そうです。
参考:https://www.iqair.com/jp/world-most-polluted-countries
環境汚染はだれが悪いのか?
「じゃあバングラディシュで革を作るのをやめれば貧困問題は解決するやん?」
って思うのも当然です。
しかし、皮革産業がなくなっても、ほかに仕事の代わりがないのも実情。
増えすぎた人口を賄うためにどうしても、先進国がやらない事業に手を付けてしまうのです。
簡単に辞めればいいと言う人もいますが、皮革産業を辞めてしまうと生活ができなくなってしまうんですよね。
様々な要因を解決して環境を戻すには、何十年という長い期間が必要でしょう。
発展途上国で大量生産された革は安いけど・・・
さてここからは、革業界のサスティナビリティ(持続可能性)についてです。
大量に水を使う革の鞣しならではの問題なのですが、回転サイクルの早いクロム鞣しの工業排水を川にそのまま流すと、想像を大きく超える事態になるのは先の動画でも目にした通りです。
皮に残った肉や、毛を溶かす際に使われる薬品もそのまま垂れ流しということで、この鞣したときの排水はどこの国でも結構な大問題になっていまして。
この工業排水を浄化する設備にビックリするぐらいお金がかかるので、排水施設を作らないタンナーの革は安いのです。
持続不可能な環境汚染
海外の激安タンナー(革の加工工場)は原価を上げたくないので、革を鞣すときに排水をそのまま垂れ流します。
今回取り上げた最貧国のバングラディシュだけではなく、勢いのある中国やインドなどでも革を鞣すことで環境汚染が進んでいる地域があります。
貧困地域はこの排水に環境基準を設けると単価が上がって産業が滞るため、土壌が汚染されているのを黙認しながら生産を続けるしかありません。
そのため、「明らかに安い革」を僕たちが使うことで環境汚染の手助けをしているのと同義、といっても過言ではないのです。
革業界におけるCSR(企業の社会的責任)
このように、革業界は環境問題との関係が深く、CSR(企業の社会的責任)という言葉が、SDGsがテレビなどで発信されるずっと前から問題になっていました。
そのため、どこよりも早く環境問題に目を向けた業界(改善が進んでいるかはさておき)の一つだと思っています。
革業界は革靴を中心に回っている
もともと革というのは革靴を中心に発展してきた経緯があります。
皮革産業というのは、革財布やレザーバッグではなく、革靴を中心に集まっているんですよね。
実際、革ジャンや革財布などは生産量に限界があるので、そこまで革業界を動かす力はありません。
「革靴メーカーが1つ潰れると、取引していたタンナーが5つ潰れる」と言われているほど、革靴との関係が深いのです。
ブランドそれぞれのCSR
革靴といってもピンとこないかもしれませんが、ビジネス向けの靴でけではなく、カジュアル靴の革もあります。
例えば、アディダスやナイキなどのブランド、スタンスミスにエアフォースワンといえば納得できるでしょう。
そして、ご存じの方もいるかもしれませんが、アディダスやナイキなどの靴ブランドは本革から人工皮革へと切り替えを行っています。
実際には合成皮革(PVC)も環境汚染を進める要因になるため、ブランドごとにどういった取り組みをしているのか確認することは必須です。
国内の革業者は環境基準をバチバチ守っている
ここまで書いておいてなんですが、環境汚染を気にするなら国内ブランドを買うのが一番だったりします。
「環境基準を守った革を使っています」
この注意書き、国内ブランドや国内業者が使わないのにはわけがありまして、じつは日本国内では昔からバッチバチに環境基準を守っているので書く必要がないのです。
というか、日本は国の決まりでこういった環境周りについては昔から厳格なので、従来の環境を壊すような工場を稼働させることができなくなっているんですよね。
工場近隣の川に、油や魚なんかが浮いているとすぐに監査が飛んできます。(経験談)
日本一汚いといわれている川でもこの程度です。バングラディシュのブリガンガ川と比べると一目瞭然ですね。
この川の水質がどうなっているかはさておき、発展途上国と国内との環境の差は知っておくべきでしょう。
大きな違いは排水処理がされているかと、廃棄物の処理方法です。
国内ブランドとはいっても
国内タンナー仕入れの国内製造だと話は早いのですが、国内ブランドでもバングラデシュの革を仕入れている、海外生産で安く作って安く売っている、などの方式を取っているところもあります。
そういうところは会社方針を確認しても、残念ながら環境問題を黙認しているケースが多いと感じます。
ちゃんとした国内ブランドの判断はとても難しいですが、
- 仕入れているタンナーの名前を明らかにしている
- ヌメ革をメインに使っている
などが、最低限のボーダーラインだと思います。
海外タンナーを使っていても環境基準を守っているところはタンナー名を出していますし、もし環境に悪いことをしていたらタンナーが名指しで批判されるのでわかりやすいです。
ただし、仕入先を教えたくない、などの理由からタンナーを明らかにしていないケースもあります。
その場合、ヌメ革(タンニン鞣し革)を使っていれば「大量生産されていない=ある程度環境を守って作られている」という風な認識でも、まぁ大きくは外さないんじゃないかと思います。
このバランス感覚が本当に難しいので、本当は「国内タンナー×国産ハンドメイド」オンリーで狙うのが一番かもしれません。
とはいってもメイドインジャパンは高い
「革素材って元々が安いんだから、高い財布はブランド料がたくさん乗っているんだよ!」
って思い込んでしまっている人もいますが、それは間違いです。
手間暇かかった革素材は高いのが当然です。
ここまで書いてきたように、安い革には安いなりの理由があります。逆に、素性のしっかりした革は高い、これは忘れないでください。
また、忘れがちですが職人の技術にもある程度の価格が乗っています。
とはいえ、多くの革職人は大っぴらに名前を出すことのない裏方なので、大衆食堂の料理人のようにそこまで他店と比べても価格差を感じるところではないでしょう。
どのブランドを買えば正解か
「環境汚染してないブランドの革製品がほしいー」
っていわれてもぶっちゃけ、どこのブランドを買えば正解なのかはわかり辛いです。
こういう状況で一つだけ言えるのは、新興ブランドよりも「ある程度の地位を確立している老舗ブランド」を選ぶのが間違いない選択でしょう。
老舗になればなるほど運営してきたという歴史は、逆にいうと長年人から選ばれ続けてきたという実績でもあります。
同様に抱えている職人もブランドの歴史とともに実績を積んできています。
あとは、業者との繋がりが長くなるため、良い素材を優先的に買えている可能性も高いわけです。
安心感と安定感を買うという意味で、やはり老舗ブランドは圧倒的に優位でしょう。
まとめ
安い革を買わなくなれば発展途上国で飢える人が増える、買うと発展途上国の環境が汚染される。
こういった問題を解決するために様々な企業が努力しています。
また、環境問題を企業任せにするのではなく、僕たち一人ひとりも問題意識を持って革製品と向き合うべき時が来ています。
向き合い方は色々ありますが、簡単なのは環境問題に取り組んでないブランドの製品を買わない、ということです。
例えばバングラディシュ製の革を使っているにもかかわらず、現地の状況を説明していないようなブランドは危険かもしれません。
ちなみに、規模の大きな世界中に商圏を持っているブランド限定ですが、どの程度問題に取り組んでいるのかは「ブランド名+環境問題」「ブランド名+CSR」などで調べればどういった取り組みをしているのかわかったりします。
ということで、今回は革と環境問題についてでした。