革製品を選ぶとき、一番最初に気になるのが鞣し方の違いではないでしょうか。
- タンニン鞣しはエイジング(経年変化)をする
- クロム鞣しはエイジングをしない
というのが一般的ですが、他にも両者の違いはたくさんあります。
鞣し関連は話すことが非常に多く、ものすごいマニアックな話になるので覚悟して読んでください。
これでも文章をかなり削って半分ぐらいにしています。
鞣しとは
鞣しというのは、動物から取った皮を腐らないよう、薬品によってタンパク質を変性させる作用のことを指します。
主に期待される効果は下記3つ。
- 微生物作用に対して抵抗製を与える(防腐処理)
- 生皮に対して耐熱性を与える
- 簡単に生皮の状態に戻らない
難しい言葉ですが、簡単にいえば「生の皮を放置すると腐る」ので、腐らないように処理して長く使えるようにする、というのが大きな目的です。
耐熱性とか生皮に戻らないとかは、僕たち消費者からするとあまり関係のない出来事ですね。
そして、このとき鞣される前の状態を「皮」、鞣された後を「革」と書いて区別しています。
耳で聞くと同音異句になるため分かりづらいですが、ぶっちゃけ間違った方の漢字を使ってもだいたいの人がわかってくれるのでOKです!
この鞣しで使うときの薬品の種類で、タンニン鞣しとかクロム鞣しというふうに区別しているんですね。
革の耐熱性は期待できない
革の耐熱性の話が出てきたので体験談を書いておきます。
時計の革ベルトが臭くなったので熱消毒を試したことがありますが、80度ぐらいのお湯を掛けたらパリパリに縮んだことがあります。
ジーンズの革パッチもお湯をかけてエイジング加工することもありますし、過度な期待は禁物です。
あくまで皮の状態から比べたら耐熱温度が上がっているというだけで、鞣しの強度を測るために熱耐性を指標として使うことがあるだけのようです。
たぶん僕たちの生活において、期待できるような耐熱性はないと思います。
ご参考までに。
皮は皮で使い道があるよ
革のことばかり取り上げられますが、皮の状態でも使い道はあります。
犬のガムとかそうですよね。
ただ、鞣し処理をしていないためカッチカチに乾燥しています。
革はある程度の時間放置していても油分は抜けませんが、皮だとすぐに乾燥して硬くなってしまいます。
あまり話題に出てきませんが、鞣しには保湿効果もあるんですよね。
逆にいえば、革へオイルを定期的に入れないと、いずれは犬のガムのようにカチカチになってしまうということでもあります。
タンニン鞣しとクロム鞣し
鞣しの作用については恐ろしく複雑なため割愛しますが、僕たちが知っておくべき事実はこれだけ。
- タンニン鞣し(植物由来の成分で鞣す)
- クロム鞣し(化学薬品で鞣す)
- 混合鞣し(上記両方で鞣す)
の大きくわけると3種類にわかれます。
ほかにも色々な鞣しがありますが、基本的にはこれだけで良いです。
とくに一番下の混合鞣しについては、ブーツ(革靴)と極一部の革小物ぐらいでしか使われないマニアックな製法です。頭の片隅に入れておいてください。
それでは、タンニン鞣しとクロム鞣しを細かく解説してみましょう。
タンニン鞣しの詳細
タンニンで鞣された無加工の革のことをヌメ革とも呼びます。革財布でいうとこちらがメインですよね。
あの独特のナチュラルカラーはタンニン鞣しでしか発色しません。
厳密にいうと混合鞣しなどでもありますが、実際にナチュラルカラーの革素材はほとんどタンニン鞣しです。
- 分厚く作れる
- 硬く作れる
- 紫外線や油脂によって色が濃くなる(経年変化)
メリットは上記で、とくに分厚くて硬いというのは革小物において外せない魅力です。
逆にデメリットは、
- 傷に弱い
- 水に弱い
- 色が安定しない
- 量が少なく高価
まー、大雑把にいえばクロム鞣しと真逆の性質がある、ということになります。
タンニン鞣しの弱点を改良されたのがクロム鞣しということです。
タンニンはお茶から取れるの?
タンニン鞣しは「ベジタブルタンニン鞣し」と呼ばれることもあります。
鞣し剤を植物から取っているためこのように呼ばれているのだと思いますが、タンニンといってもたくさんの種類があります。
よくお茶と比較されますが、実際にはミモザ、アカシア、チェスナット、ウォルナット、ケブラチョ、オーク、などの木から採れるのが代表的なタンニンですね。
鞣しに使われるタンニンの種類によって、仕上がりの発色が変わってきます。
そう、ヌメ革の色がタンナーによって微妙に違うのは、牛革の産地ではなく、鞣し剤の違いだったんですね。
ちなみに、僕が訪れたことのある国内のタンナーはミモザをメインにしたブレンドタンニンが多かったです。
ピット鞣しとドラム鞣し
タンニン鞣しの大きな特徴として、ピット鞣し素材があることでしょう。
ピット槽と呼ばれる大きなプールで長期間漬け込むことによって、肉厚で硬いとてもカッコいい革として仕上がります。
1cmほどの厚みに、叩くとコツコツ音がするという強靭さを出せるピット鞣し革、じつは作るまで時間がかかるため一枚あたりの単価はとても高額になります。
ただ、世界的に見てピット鞣しをするためのピット槽自体の数がほとんどない(全部で7タンナーぐらい?だったはず)上に、ピット槽を新しく作り直すこともできないそうなので、年々数が減っていて貴重になっています。
ピット鞣しと比べると、ヌメ革のドラム鞣しは革を回転させるのでしなやかさが出てしまいますし、スムーズに回転させるために革を薄くしているそうです。
ピット槽があるのは国内だと栃木レザー、湘南皮革、海外だとベイカー社、などが有名ですね。
とはいえ、一般的な革製品にはピット鞣しということを商品説明で書いていないので、僕たちが確実に手に入れるならメーカーへ電話確認するぐらいしかないかもしれません。
クロム鞣しの詳細
クロム鞣しは、鞣しに使うクロム剤のせいで青く染まっています。この青い状態をウェットブルーと呼びます。
ウェットブルーのまま革を使うことはないので、基本的にはクロム革というのは着色されています。
あまり内情を知っているわけではありませんが、このクロム剤は大量に作れるそうなので、革の大量生産に向いています。
ということでメリットは、
- 水に強い
- 発色が良い
- 色が安定している
- 丈夫でしなやかで薄い
- こまめな手入れが必要ない
- 大量生産で安く作れる
タンニン鞣しと比べると、布素材と同じような感覚で使えるため、車のシートやソファなどの大型家具から、革靴、バッグまで身近に溢れています。
素材としての完成度が高く、デメリットはほとんどありませんが、僕たち革マニアとしては経年変化しない、というのが一番の難点でしょう。。。
ヌメ革と比べると丈夫で手入れが不要な分、寂しい思いをされる人も多いでしょう。
優等生素材なのに心情的にはとても複雑なのです。
クロム鞣しとタンニン鞣しの見分け方
これね、たぶん相当革に詳しい人でも見分けるのって難しいんじゃないかと思うんですよね。
見分けられるって言ってる人はちょっと知ってるだけの素人か、業界に長くいる達人か、の2択です。普通にわからないものも多いです。
分かりやすいのは厚み、硬さ、ナチュラルカラー、傷の付きやすさ、ぐらいでしょうか。
ナチュラルカラーならほぼヌメ革というのはわかるんですけど、何かしらの色がついているとまず無理でしょう。
もし革の床面(裏面)を見ることができるなら、青やグレーっぽくになっているのはクロム革ですが、芯通し染めならわからないものもあります。
合成皮革もかなり良いものができるようになってきたおかげで、革の種類を見分けるのが年々難しくなっている印象です。
混合鞣し(コンビネーション鞣し)
混合なめしはタンニン鞣しやクロム鞣しのように説明が簡単ではないので避けたいところですが、一応軽く触りましょう。
一番わかりやすいものでいうと、革のブーツ、これが混合なめしです。
- ブーツはタンニン鞣しの厚みを出したまま、クロム鞣しの傷の付きにくさを出す、というような混合鞣しをしています。
- ほかの革製品だと、タンニン鞣しの経年変化を保ったまま、クロム鞣しの強靭さを出したい、みたいな鞣し方をしたりもします。
つまり、クロム鞣しとタンニン鞣しの比率によって内容がガラッと変わってくるので、タンナーが求めるものによって性質が違います。
先にタンニン鞣しをしてから脱タンニン後にクロム鞣しをするのか、クロム鞣しをしてから脱クロム後にタンニン鞣しをするのか、でも性質が変わってくるようです。
正直、混合なめしをしているタンナーさんに行ったことがないんで、細かい部分がよくわかんないんですよね。
革財布における混合なめし
革財布ってヌメ革を使うことが最上級になるので、率先して混合なめしをすることはないんですよね。
むしろ経年変化をしないとかキズがつかないとか、財布としての存在意義を問われるレベルです。
- ボックスカーフ
- シラサギレザー
なので、混合なめしを財布に使うことはとても少なく、覚えているだけなら上記2つだけです。
2つとも経年変化を主体にして、丈夫さをヌメ革よりも高く作っています。
この他にも無名の混合なめしを使っているブランドはいくつかあるものの、上記ほど特筆した魅力はありません。
小話 日本古来の鞣し文化など
鞣しの歴史は結構古くて、紀元前から鞣しの文化があったと言われています。
文字とかが存在しない時代の話なので、壁画とかで想像するしかないんですけど、たぶんそうだろうということですね。
で、我が国日本の鞣しの文化は、古いもので西暦700年頃、聖武天皇の履物から確認されています。
あとは鎧武者の鎧や、刀の柄なんていうのも革でできていますよね。
牛や豚を食べる文化が発達してなかったため、主に使われていた革は狩猟で捕れるシカで、ほかにはイノシシ、クマ、馬などがあったようです。
レザーマテリアルっていうと新しい素材のように聞こえますが、革は日本の文化を影で支えてきた立役者なのです。
日本の古い鞣し方
昔の日本ではタンニン鞣しやクロム鞣しなどの方法はなく、「脳症鞣し(のうしょうなめし)」という動物の脳みそを擦り込むちょっとグロい手法が使われていました。
この脳症鞣しは個人でもできるため、今でもYOUTUBEなどで調べるとやっている人が色々出てきます。実際に行うと細菌感染などで健康被害があるようなので、もしやりたい人は注意しながら実践してみてください。
それ以前になると「燻製鞣し(くんせいなめし)」という、煙で燻す方法ですね。
ほかには姫路伝統の「白鞣し(しろなめし)」というのも1000年ほど前から使われていたようです。
結局のところ、現在メインになっているのがタンニン鞣しとクロム鞣しの2種類ということで、鞣しの効果としては・・・?ということだったのでしょう。
現在世の中に出回っている革には、先人たちの失敗と経験が詰まっていてロマンが溢れているわけです。
もし自分で鞣したいなら
もしなにかのキッカケで動物の皮を手に入れたら、自宅で鞣す簡単な方法(他の方法と比べると、ですが)としてミョウバン鞣しがあります。
詳しい手順は割愛しますが、脳症鞣しを試すよりも危険度が低く、またAmazonで買える素材だけで鞣せるので手軽に試せると思います。
人によってそれぞれ方法が違うようなので、検索して最適な方法を探してみてくださいね。
【まとめ】結局、タンニン鞣しとクロム鞣しはどっちがいいの?
よく言われる「タンニン鞣しって最高だよね」みたいな意見って僕はあまり好きじゃありません。
クロムもタンニンも両者で特性が違うため、自分の性格にあった革を使うのが一番だからです。
革小物ならタンニン鞣しが最高だとは思いますが、何から何までタンニン鞣しがいいと言うわけじゃないんですよね。
というのも、昔行ったカフェにタンニン鞣しのソファがありましたが、水跡と汚れが本当に汚くて座っていると気持ち悪くなってきました。
革財布も同じで、タンニン鞣しのせいで汚れている財布も結構あります。その使い方だとクロム鞣しのほうが良かったのでは?と思ったり。
結局のところ、どれだけ自分が手を掛けられるかが革をカッコよくできるので、
- マメな人はタンニン鞣し
- ズボラな人はクロム鞣し、もしくは混合なめし
ザックリわけると、こういう風に向き不向きが分けられると思います。
まー、なんだかんだいっても自分の好きなものを使うのが一番なので、今回の記事が参考になれば幸いです。