サラサラとした手ざわり、上品な質感、ああ・・・起毛革って本当に良いっ!
身近でもたくさん使われている起毛革。でも、じつは種類がたくさんあることは知られていません。
スエードもヌバックもベロアもキップスキンも、それぞれ別物なんですよ。
今回は「革の種類」や「起毛のさせかた」によって呼び名がコロコロと変わる、起毛革のお話です。
みんなの知らない革知識シリーズ
基本的に「ヌバックは牛、スエードは豚」
まずは世間でよく使われている起毛革の説明からです。
革製品に使われている起毛革を大きくわけると、「ヌバック」と「スエード」の2種類になります。
- ヌバック(Nubuck)・・・おもに牛革の表側
- スエード(suede)・・・おもに豚革の裏側
両者とも革にバフがけ(ヤスリがけ)して起毛させているのは一緒ですが、基本的に「ヌバックは牛、スエードは豚」になります。
(※例外でこれらの革以外が使われている物もあります)
どちらの起毛革も薄さとしなやかさが求められることが多く、求められている特性からクロム鞣し革がメインになります。何も記載がなければほぼクロム革でしょう。
ヌバックは高級品
ヌバックのほうが高級品に使われることが多いのは、牛のほうが原皮の値段が高いからでしょう。
さわり心地もスエードがザラザラしているのに対して、ヌバックのほうはシットリしていますから、高級感もありますよね。
そして、
- 一般的に普及しているのがスエード
- あまり見かけなくて高級品によく使われるのがヌバック
なのです。
豚革で作られているスエードは、牛革ヌバックに比べて割安なため、低価格帯の商品に使いやすいわけですね。
ヌバックをあまり目にしないのにはこういった背景も絡んでいそうです。
削り方で差がでるよ
起毛革はヤスリがけによって表面を毛羽立たせます。
製法は主に2種類、紙ヤスリと金属ヤスリ、どちらでバフ掛けするかによって仕上がりに差が出るようです。
僕自身で違いを確かめたわけではありませんが、業界的にいえば紙ヤスリの方が仕上がりがいいと言われています。※そのうち試してみたい。。。
この削り方については販売店が明示することがないので、噂話程度に覚えておいてください。
起毛革のことをバックスキンと呼ぶことも
ヌバックもスエードもひとまとめにバックスキン。
業界によっては起毛革のことをバックスキンと呼ぶところもあります。ソファなんて未だにバックスキンって呼ばれたりしますよね。
ですがじつは、本来の意味でバックスキンというのは鹿の革のことです。
「バック (buck)」は牡鹿のことで、「スキン (skin)」は小さな革の総称になります。※ちなみに大きな革は「ハイド」と呼びます。
聞き間違いで、バックを後ろの意味でBACK、つまり革の裏として捉えたことが、バックスキン=起毛革の勘違いの始まりだといわれています。(諸説有り)
意味が通じるなら間違いではないんですけど、起毛革はそれぞれで手入れ方法が違うため、あまり使わないほうがいいかもしれないです。
「革の表」と「革の裏」の呼び方の話!
ここで少しだけ革のオモテとウラについても説明させてください。
- 表のことを銀面(ぎんめん)
- 裏のことを床面(とこめん)
革にたずさわる仕事をしている人は、革の表と裏のことを上記のように呼びます。
ヌバックは牛革の銀面・・・つまり表側をバフがけした革。
スエードは豚革の床面・・・つまり裏側をバフがけした革。
ということになるんですね。
ちなみに「床革」というのもあって、銀面のついていない革のことを指します。ものすごく長くなるので割愛します。
当ブログではなるべく銀面、床面という言葉単体で使わないようにしていますが、使いこなせるとカッコいいですよね。
ヌバックの詳細
このサイトへ「ヌバック」という検索ワードで来る人が多いので、まずはヌバックの詳細からスタートしましょう。
おもに「牛革の銀面(表面)」をバフ研磨(ヤスリがけ)して起毛させて作られるヌバックレザー。
革の表側に当たる部分の銀面をヤスリで荒らしているため、スエードに比べて丈夫だといわれています。※鹿革の銀面を荒らしたバックスキンもヌバックの友だちです。
牛革なので、どうしても豚革で作られるスエードより値段が高くなります。
つまり、ヌバックは起毛革の中でも高級な革になるわけです。
※ヌバックの語源
- newbuck(ニューバック)が訛ってヌバックになった説
- neobuck(ネオバック)が訛ってヌバックになった説
ヌバックの語源が気になって海外サイトなどもかなり漁ってみたのですが、上記2つのどちらかが有力です。
どちらの言葉も buck は牡鹿を指していて、鹿革の質感に似ている素材、ということみたいですね。
ヌバックのデメリット
革って高級になればなるほど弱点が増えるんですけど、ヌバックの場合は汚れに弱いというデメリットが存在しています。
汚れに弱いなら撥水スプレーをすればいい、と考える人もいるでしょう。
しかし、ヌバックをツヤツヤにエイジングさせるためには撥水スプレーがご法度というめんどくさいルールがあります。
- 起毛状態をキープしたい人は撥水スプレーが必須
- エイジングを楽しみたい人は撥水スプレーは禁止
このルールを覚えておけばさらに起毛革が楽しめると思います。
革財布に最適な素材・・・かもしれない
ヌバックのエイジングはツルツルテカテカヌメヌメ、と使うごとにテカリが増していくカッコ良さがあります。
そのエイジング(経年変化)がカッコイイ良すぎて、革財布に使われる素材として認知度が高まってきています。
自分でヌバックに油分を足すのもいいですし、元からオイルたっぷりのオイルヌバックという素材もあります。
オイルヌバックは経年変化のスピードが早く、エイジングが好きな人が使うと幸せになれるかもしれません。
ヌバックの使い道
ヌバックの大きな使い道としてはソファ、バッグ、ブーツ、革靴、などでしょうか。
スムースの牛革からワンランク上の素材として使用されることが多いようです。
ただ、日光に当てると退色しやすいのと、汚れが目立ちやすい、という管理の難しさから積極的には使われていないようです。
革財布では下記2ブランドが有名ですね。
▼「ココマイスター」のオイルドヌバックはエイジング重視の特殊な素材です
-
【まとめ】進化する革!ナポレオンカーフのエイジングがヤバ過ぎて人気絶頂!
「革を育てたい!」のなら、オイルドヌバック以上の素材はありません。 そう!ナポレオンカーフシリーズは、ココマイスターの中でも脅威のエイジングパワーを持っているシリーズです! ここ最近ジワジワと評価が上 ...
▼「セトラー」はホワイトハウスコックスのセカンドラインで、知る人ぞ知るヌバックメインのブランド。
-
【まとめ】セトラーはどんな財布ブランド?オイルヌバックの評価や評判など
オイルヌバックという起毛革を使った財布を作ることで有名なセトラー。 ですが、Whitehouse Coxのセカンドブランドであることを知っている人は多くありません。 というふうに、セトラーの詳しい情報 ...
スエードの特徴
さて、ヌバックのライバルといえばスエード。というか、一般的に起毛革と言えばスエード!というぐらい認知度の高い革ですね。
ヌバックとは違い用途の多いスエードは奥が深いです。
その特徴は「豚革の床面(裏側)」にバフがけ(ヤスリがけ)をして毛羽立たせていること。
スエードは削れば削るほど強度が落ちるかわりに、薄くてキレイで安定した起毛になります。
そのため高級なスエードはしなやかで毛並みがキレイです。
ただし、こちらの素材もヌバックと同様に汚れやすいというデメリットがあります。
汚れ防止のためには防水スプレーが必須なのです。
※スエードの名前の由来は手袋
スエードの由来には諸説ありますが、一番有力なのはこちら。
フランス語で「gants de Suède(ガンツ・デ・スエード)」つまり、「スウェーデンから来た女性用の手袋」から名前を取ったと言われています。
スウェーデンから来た手袋は起毛素材を使った贅沢な高級品。
なので、そこから言葉が一人歩きして起毛革=スエードと呼ばれるようになったそうです。
スエードの素材になるのは「豚革」
革好きなら誰もが気になる素材の話。
スエードにはクロム鞣しの豚革が使われます。
たまに馬革のスエードも見かけますが、商品説明に何も記載がなければ豚革です。
「スエード=豚革」という認識でOKです。
ほかにも牛、山羊、鹿、羊などが存在しているようですが、商品として使われることは稀です。見つけたらレアでしょう。
スエードは削り方で差がでるよ
起毛革はヤスリがけによって表面を毛羽立たせるのが一般的ですが、前述したように紙ヤスリと金属ヤスリによって仕上がりに差が出るようです。
僕自身が違いを確かめた事が無いのでなんともいえませんが、紙ヤスリの方が仕上がりがいいと言われています。
また、削る量によっても差が広がるため、ブランドごとに仕上がりの差があります。
一口にスエードといっても価格に差があったり、触り心地が違ったりするのはこのせいなんですよね。
いま持ってるアイテムの手触りが気に入らない人は、自分で紙やすりの細かい番手を使って削り直すのも面白いかもしれません。
※豆知識:その他の起毛革の特徴など
スエードとヌバック以外にも有名な起毛革を一部紹介しますね。
- ベロア
- バックスキン
- セーム革
↓でサラッとですが、特徴を説明してきます。
1,バックスキンの特徴
元々、「BUCK SKIN(バックスキン)」つまりオスの鹿革という意味です。
しかし、そこから転じてヘラジカの革をネイティブインディアンと同じ方法で鞣した革のことを指すようになりました。
耳で聞くと「BackSkin(革の裏)」に聞こえるので、スエードと同じく起毛革という意味合いでも使われます。
ちなみに、日本ではバックスキンの使い方がとても複雑で、
- 鹿革を起毛させたもの
- 鹿革そのもの
- スエード調のもの
などなど混同して呼ばれています。とくに業界ごとに認識が違うため気をつけてください。
また、英語圏でのバックスキンはBUCK SKINと書くため他に間違いようがなく、起毛のあるなしに関わらず鹿革を指します。(※eBay調べ)
2,ベロアの特徴
ベロアは質感を表す呼び方で、一般的には「布」に対して使われる言葉です。
ただ、革に使われる場合はスエードと同じく革の裏側をバフがけしたものを指します。
差別化として、スエードよりもベロアの方が毛足が長く滑らかになっているようですが、正直見たことも触ったこともないのでわかりません。
実際、革でベロアという言葉を使うことは稀なので、ファブリック素材のベロアがわかっていれば十分でしょう。
ちなみにドイツではスエードの中の一部として「品質を表す言葉」の代わりに使われているようです。
3,セーム革の特徴
もともとセーム革は、鞣したカモシカの革を起毛させた皮革素材のことでしたが、現在では羊やヤギ、ブタを加工した革もセーム革と呼ばれています。
セームは特殊な用途の革で、多孔質なので水をたくさん吸う性質を利用します。
つまり、雑巾の代わりに使われます。
なので普通の革とは違ってファッション用途ではなく実用的、車を洗車したあとの拭き上げなどに使われる実用的な革素材です。
ということで今は、吸水性のいい起毛素材(合皮含む)が、すべてセーム革と呼ばれているようです。
洗車グッズとして合皮セームもたくさん出ていますが、本革セームはやはり人気がありますよね。
(※キョンという小さな鹿の革を使った「キョンセーム」が高級品とされています。)
最近は、合皮の起毛革もすごい!しかも高級品!!
ここで紹介する合皮の起毛革は、靴や服飾、小物に使われることはほとんどありませんけど、ヌバック・スエードの弱点を克服した完成度の高さが魅力です。
- 日本ではエクセーヌ
- アメリカではウルトラスエード
- ヨーロッパではアルカンターラ
と呼ばれている「東レ」が作った合成皮革、これがマジですごい!
世界中の高級車のレザーシートとして使われている超高級合皮で、今まで安っぽい響きだった合皮のイメージを一新しました。
耐久性や耐光性・難燃性が極めて優れており、通常の本革スウェードや合成皮革と比較しても手入れに手がかからないように留意されている。このような優位点から、高級車の内装に比較的本革を多用するヨーロッパでは1980年代になってから、維持に手間を必要とする本革にとって代わる高級素材として徐々に普及していった。 ~中略~ メルセデス・ベンツやBMW、アストンマーティンなど、多くメーカーで内装生地として使われている。
人工的に作られた起毛革なのに、本物よりも汚れに強く手入れが必要ないのが特徴。
なので、車の内装やシートに使いやすく、革のように手入れが必要ないため人気が高いんです。
単価が高すぎることが難点で、この先も小物などに普及することはないかもしれませんが豆知識として紹介しておきます。
本革の起毛革だと使っているうちにテカってくるため、経年変化が喜ばれないソファや車のシートには最適な素材でしょう。
まとめ
いかがでしょうか。スエードとヌバックの違い、そして他の起毛革の世界が分かりましたか?
当サイトでも何度か出てくる話ですが、革の世界は専門の学者さんがいなくて定義が曖昧な世界です。
ブランドの販売員がうろ覚えの知識を意気揚々と話して、それが伝言ゲームでさらに間違って伝わっている、そういう話も多々あります。
もしかしたら、日本のどこかではスエードとヌバックの意味合いが逆転しているところもあるかもしれません。
でも、そういうところも全部含めて革の世界って面白いんですよね。
それではまた次回。
みんなの知らない革知識シリーズ