みんながわかる革の基礎知識シリーズの第一回目は、「ヌメ革について」です。
もはや革といえばヌメ革、ヌメ革といえば経年変化!
ということで、ヌメはもっともスタンダードな革として知られています。王道というやつですね。
ツヤっツヤのアメ色に焼けたヌメ革はみんなの憧れの的です!
そこで今回は、みんなが大好きなヌメ革を分かりやすく解説していきましょう!
関連記事:ヌメ革のバッグにできた水シミの落とし方!【鞄のしみ抜き】
みんなの知らない革知識シリーズ
ヌメ革ってなんやねん!他の革との違いは?
- ベジタブルタンニン(植物性タンニン)鞣し
ヌメ革は定義が色々あってややこしいのですが、基本的にはベジタブルタンニン鞣し、つまり植物性のタンニンで鞣された革がヌメ革と呼ばれています。
ほかの鞣し方として化学薬品を使ったクロム鞣しがありますが、クロム鞣しとの大きな違いはナチュラルカラーの色。
無着色だと、ヌメ革は生成り色(肌色)で、クロム革はウェットブルー(青色とグレーの中間っぽい色)になります。
つまり、上記画像のような色はヌメ革の大きな特徴といえるでしょう。
ベジタブルってどの野菜?
ベジタブルタンニン鞣しの場合のベジタブルは、植物性という意味で、ベジタリアンみたいに野菜に関連があるという意味ではありません。
よくタンニンの説明でお茶を例に出される人が多いのですが、お茶も使いません。
使われるのはおもに木材で、ミモザ、アカシア、オーク、チェスナット、ウォルナットあたりです。
日本国内のタンナーだとミモザをベースに、いくつかのタンニンをブレンドしているのをよく見かけます。
また、海外だとオークやチェスナットを使っているところも多いですね。
それぞれ元の木材の種類に応じて仕上がりの色が濃くなったり薄くなったりします。
ただ、鞣しに使っているタンニンはタンナー秘伝の技術らしく、あまり詳細が語られることはありません。
ピット鞣しとドラム鞣し
あまり知られていませんが、ヌメ革にはピット鞣しとドラム鞣しの2種類があります。
基本的にはドラム鞣しのヌメ革が使われることが多く、ピット鞣しはその希少性のおかげで世の中に出回ることが少ないです。
ピット鞣しの特徴
原皮をピット槽と呼ばれるプールに漬けられて、ゆっくりと時間をかけて鞣されます。
その特徴は、軽く叩くとコンコンと音がするほどの硬さと、1cmを超えるほどの肉厚さ。
靴底に使えるぐらいギッシリと中身の詰まった硬い革は、ベルトに使うとめちゃくちゃカッコいいですし、薄く漉いて財布に使われることもあります。
また、1枚の革を鞣すのに3ヶ月~1年ほどかかると言われていて、とにかく場所と時間を使う鞣し方になります。
1枚あたりの単価が高くなるのが難点といえば難点。
さらに、ピット槽を持っているタンナーが年々減って、今は国内で4箇所ほどしかないそうですね。
槽の新設もできないため、今後無くなることがほぼ確定しているそうです。悲しい。
ドラム鞣しの特徴
ドラム鞣しは今主流の鞣し方で、1枚作るのに1週間ほどでできると言われています。
鞣す段階で、ドラムの中で複雑に揉まれているため、革にしなやかさがあります。
薬剤を早く浸透させるために薄く漉かれていて、ピット鞣しよりも薄く仕上がるのも特徴の一つ。
タンナーによって変わるので一概にはいえませんが、早く仕上がるので単価も安く、手頃感のある価格で売られていることが多いです。
基本的に、ヌメ革として売られている革製品の多くはこちらのドラム鞣しで作られています。
ヌメ革はとにかくエイジングがカッコイイ!
ヌメ革といえば忘れちゃいけないのが・・・そう、エイジングですよね!ここ大事!
- ツヤのあるアメ色に変化する
- 使い続けることで馴染んでくる
- 革の表面にキズがつく
表面加工がされていないため、、使い続けることで大なり小なりこういった変化がおきるようになります。
革が大好きな人たちはこれらの変化を「アジが出てきた(エイジング・経年変化してきた)」と表現します。「革が育つ」とも言ったりしますよね。
また、革好きたちの間では、育てた革財布を見せ合う会なんていうのもあると聞いています。
そこまでいかないにしても、いつも使っている財布が少しずつ変化していくのは嬉しいですよね。
てことで、主にエイジングと呼ばれるものを下記にまとめました。
エイジング1:アメ色への変化
誰もが思い浮かべるヌメ革のエイジングといえば、ツヤツヤテカテカになるアメ色への変化(経年変化)でしょう!
さらに、黒や青など色付きヌメでも、アメ色にはなりませんが色が濃くなりツヤが出きます。
使っているうちに革が擦れたり締まったりして、革の表面密度が高くなるのが要因ですね。
この最高にインパクトのある変化こそ、人々がこぞってヌメ革の財布を求める理由です!
※当サイトでも各ブランドのエイジング画像をまとめた記事があるので、自分にとって理想のエイジングを見つけてみてください。
エイジング2:ヌメ革は使い込むと馴染んでくるよ
アメ色に変化するだけがエイジングではありません。革は使っているうち自分に馴染んできます。
普段の使い方や、自分の体のクセに合わせてどんどん使いやすくなってきて、唯一無二の存在へと進化してくるわけです。
世界に1つだけの自分の財布に成長していくんですよね。
お尻のポケットの形に馴染むのはもちろん、普段の小銭を出し入れしたり、カードの跡だったり、様々な表情を見せてくれます。
なので、同じ財布でも使っている人によって別物のようになることすらあります。
エイジング3:キズがつく
ヌメ革の財布に限らずですが、やはり革財布はちょっとしたことでキズがつきます。
自然素材なのでキズとは切っても切り離せません。
マメにオイルアップしてると油分のおかげでキズはつきにくくなりますが、乾燥していると少し爪が当たっただけでもキズがつきます。
どんなに丁寧に使っていても、長年経てばキズはそれなりについているのが革財布。
だがそれが良い!
革についたキズは思い出です。
僕も一つ一つのキズを覚えていますし、今でも財布を磨いているときに過去を振り返ります。
ほぼ日記帳みたいなもんです。
エイジング番外編:汚れに気を付けて!
そういえば、めちゃくちゃ大事なことを言うのを忘れていました。
ヌメ革はその色の特性から、とても汚れやすいです!とくに小銭入れ。
その上、日焼けやエイジングのおかげで汚れとの違いがわかりずらく、潔癖症の人ならたぶん発狂します。
一応、各社から汚れ落としクリームが出ていますし、革用クリーナーもありますが、汚れをキレイに落とすのはかなり難しいです。
水シミぐらいなら付いて日が浅ければ落とすこともできますけど、無理に落とすと色や風合いが変わる可能性があるのでご利用は計画的に。
※以下は僕がバッグについた雨シミを落としたときの方法です。
ヌメ革の使い始めには日光浴が必須!
意外とみんなやってないみたいですが、じつはヌメ革の財布は使う前に日光浴をさせると強靭さがアップします。
もちろん、そのまま使い始めても問題はありません。
ですが、よりきれいなエイジングを目指すなら必須作業といってもいいでしょう。
ということで、ヌメ革にいちばん大事な日光浴の手順をご紹介します。
日光浴のさせかた
「え、ヌメ革なのに日光浴させるの?」
と、驚く人もいるかもしれませんが、ヌメ革の使い始めは数日の日光浴をさせるのが革業界の常識です。
部屋の中でカーテンをあけて日に当てる程度で大丈夫で、軽く紫外線に当てることで日焼けをさせるのが目的なんですよね。
こうすることによって革が汚れや傷に強くなります。
人間でもガングロギャルの方が強いですもんね。それと同じようなことかと。笑
当然ながら日光の強度によってはかなり乾燥するため、日焼け中は表面がカサカサにならないよう定期的なオイルアップをしてください。
日焼け期間は感覚的な話になりますが、夏なら裏表で2日程度、冬でも6~10日程度あればいいと思います。
日光浴の注意点①
日光浴といえば日に当てるイメージですが、実際には日向に置くというよりも、カーテン越しに日干ししたほうがキレイになります。
極端に日差しが強い場所に置いてしまうと、裏表の差がすごくなったり、太陽の動きによってできた影によって色の差ができてしまいます。
ジワジワと遠火で焼いていく、そんなイメージで日光浴をさせてあげてください。
使い始めを急がなければ、いつも使っている部屋の中(LEDではない方の蛍光灯使用)へ飾っといても1ヶ月ほどあれば焼けるといわれています。
日光浴の注意点②
あと忘れてはいけないのがオイルアップ!
元々、革の中にはまぁまぁな量の油分が含まれています。
日焼けによってある程度の油分が消費されるので、日焼け前と日焼け後にオイルを塗るのを忘れないようにしてください。
まー、意外と日焼けぐらいじゃ革の油分は切れないので、よほど酷い革質じゃない限りは神経質にならなくても大丈夫です。
日光浴の注意点③
革はタンパク質なので、40度以上で変質して革が硬くなっていきます。
例えるなら、焼肉してるとある一定以上の温度から肉の色が変わって硬くなってきますよね。あれと一緒です。
なので、温度が上がりすぎないようにすることはかなり重要で、日光浴中に革が高温にならないよう注意してください。
一度硬くなった革は元に戻りません。
焼けたステーキ肉が生肉に戻らないのと同じ原理です。
ぶっちゃけ、蛍光灯から出る紫外線でも日焼け効果が出るぐらいなので、あまり神経質に日当たりを気にしなくても大丈夫です。
ヌメ革はマメに手入れすることで輝く!
ヌメ革をキレイに経年変化させたいなら定期的なオイルメンテナンスは必須です。
中には鼻の脂を塗ればいいとか手の油だけで十分という意見も有りますが、それだけでは乾燥気味になるので避けましょう。
少なくても年に1、2回くらい、通常なら季節の変わり目にはちゃんとした手入れをしてあげるのがベスト。
最低限、革の中の油分をキープできれば大丈夫です。
メーカー問わず、どのレザークリームでも油分補給ができるので、こだわりのない人は適当に安いやつを買ってきて塗っておいてください。
高いクリームは保湿効果以外に、艶出しのための成分が入っていたりします。
ただ、靴用の有機溶剤が入っているクリームだけは避けましょう。
下記に僕がメンテナンスしているときの様子を記事にしています。参考までにどうぞ。
ヌメ革に最適なオイルとは
革にオイルというけれども、革に関してはクリームもオイルも同じ意味で使われています。
もし、初めての手入れでヌメ革に何を塗ればいいのか分からなければ、万能タイプのレザークリームを使ってみてください。
財布の場合は、革靴ほど手入れが難しくないため、コロンブスやコロニルなど有名なメーカーのものであればほぼ使えます。
ちなみに僕のオススメは当サイトでもチョコチョコ出てきますが、「コロニルの1909シュプリームクリームデラックス」。
財布に使うならこれ一個で5年以上持つし、革靴やレザーバッグをはじめとした革製品すべてに使えてコスパも最強です。
ヌメ革のきれいなエイジングを目指すなら
ガシガシ使った革財布はアジがあって最高なのですが、キレイにエイジングさせたい人もいますよね。
そういうときは使用前に防水スプレーをサーッと吹いておくことで、染みや汚れをあらかじめ予防できます。
100%防げるわけではありませんが、使っていない状態と比べると雲泥の差が出ますね。
個人的に防水スプレーは、少し高いですが「コロニルの1909シリーズ」をオススメしています。
安く済ませたいならアメダスなどの靴用防水スプレーでもOKです。
ヌメ革とクロム革との違い
ヌメ革ヌメ革と何度も出てきましたが、じつは革には大きくわけて2種類の鞣し方があります。
- 薬品を使うクロム鞣し
- 植物を使うタンニン鞣し
このうち、植物を使った昔ながらのタンニンで鞣された革のことをヌメ革といっているわけです。
鞣す(なめす)というのは、大雑把にいえば腐らないように加工すること。
動物から剥ぎ取った皮をそのままにしておくと腐ってしまうため、薬品のクロムや、タンニンを使って皮の性質を変化させるのです。
「皮」は腐らないように加工されたあと、区別するために「革」と呼ばれるようになります。
(※革を柔らかくすると書けば「鞣す」という漢字になるんですよ。)
クロム革とヌメ革の色の違い
あまり知られていない話ですが、クロムで鞣された革はウェットブルーという薄い青色に染まります。
つまり、ナチュラルのクロム革はあとから加工しない限り存在しないことになります。
ということでクロム革はほとんどの場合、何らかの色に染められています。
丘染め(革の表面だけを染める方法)なら、革の裏側を見るとウェットブルーを確認することができますよ。
逆にヌメ革はナチュラルカラーが元々の色合いです。鞣すタンニンの種類と加脂されたオイルによって色の濃さが変わってきます。
ヌメ革が向いている革製品
- 分厚く作れる
- ハリのある硬い革
- 風合いが豊か
ヌメ革にはこういった性質があるので、革財布はもちろんのこと、ベルトやビジネスバッグなど硬さの必要な革小物に使われることが多いです。
クロム革から比べると鞣す工程が多いため値段が上がりますが、手入れすれば長く使うことができるためヌメ革を選ぶ人も多いです。
使い込んだ革の表情を楽しむことができるのもヌメ革の魅力です。
クロム革が向いている革製品
- 経年変化が出にくい
- 大量生産に向いている
- キズや汚れに強い
クロム革の場合はヌメ革とは逆に、大きな面積が必要だったり、一定の丈夫さが必要なものに使われています。
エイジングしにくい反面、ヌメ革とは違ってしなやかさがあるため、ソファや車のシートにはクロム革が向いています。
革が好きな人にはクロム革を毛嫌いしている人もいますが、適材適所、必要な場所に必要なものを選ぶことが大事だと思うわけです。
大量生産ができるので、ヌメ革と比べて安価に用意できるのもクロム革のメリットです。
ヌメ革の財布を手に入れる方法
ヌメ革の財布は保管が難しい(光が当たると焼けて色が変わる)ので百貨店などでの取扱いがものすごく少ないです。
とくにナチュラルカラーは店頭に置かれているものだと、ほとんどが日焼けして色が変わっています。
もし可能であれば革工房に頼んで作ってもらったり、革財布の専門店でバックヤードから出してもらうのが理想でしょう。
ボクのような身近にそういった店がない場合は、通販で手に入れることもできます。
同じヌメ革の財布といっても革の厚みやデザインなどがそれぞれ違うため、ドンピシャで好みの財布を探すという楽しみがありますね。
まとめ
ヌメ革は使う人によって様々な表情を楽しませてくれます。几帳面な人、ガサツな人、優しい人、気性の激しい人。
同じ財布でも別物のように変わってくるので、使っていくうちに世界に1つだけ、自分だけの財布になっていくわけです。
ジーンズマニアが「ジーパンをボロボロに履きつぶしていくこと」をジーンズを育てるというのですが、革マニアも同じように「革財布を経年変化させていくこと」を革を育てるというんですよね。
ぜひ世界に1つだけのヌメ革の財布を育てましょう!
また、画像は僕が現在使っている財布です。
ブライドルレザーとヌメ革のコンビなので、エイジングがダブルで楽しめてオススメですよ。